東京地方裁判所 平成9年(ワ)9975号ホ 判決 2000年12月20日
別紙当事者目録記載のとおり
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、別紙請求債権目録当事者欄記載の当事者に対し、同目録金額欄記載の金員及びこれに対する同目録起算日欄記載の日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
昭和六三年ころから平成三年ころにかけて、ライベックス株式会社(以下「ライベックス」という。)は、「ホテルオーナーズシステム」等と名付けて、ホテルやマンションの一室を区分所有権として、あるいは右区分所有権をさらに分割して共有持分としたものを販売した上、販売した物件について購入者とライベックスとの間で賃貸借契約を締結し、購入者に対して賃料を支払うというシステムを作り上げ、販売を行った。
原告らは、ライベックスが販売していた区分所有権ないし共有持分をライベックスから買い受け、もしくは、ライベックスから買い受けた第三者から買い受けた者あるいはその承継人である。
原告ら(ここにおいては、オーナーズシステムによる物件を買い受けた者について訴訟上の承継が生じている場合にはその購入者自身を指す。以下このように用いる場合もある。)は、右物件をライベックス等から買い受ける際、借入れによってその代金を支払ったのであるが、原告らに対しては、オリックス株式会社(ないしはその商号変更前のオリエントリース株式会社、以下区別せずに「オリックス」という。)、千代田生命保険相互会社(以下「千代田生命」という。)、被告及び株式会社大信販(その後「株式会社アプラス」と商号を変更しているので、以下「アプラス」という。)が物件の購入代金を貸し付け、このうち千代田生命及び被告の貸付けに対しては昭和信用保証株式会社ないし同会社の商号変更後の協和銀クレジット株式会社(協和銀クレジット株式会社はその後「あさひ銀クレジット株式会社」と商号を変更しているので、以下「あさひ銀クレジット」という。)が保証した。
ところが、ライベックスは、平成三年に、原告らに対する前記賃料の支払を停止し、平成四年一一月二〇日、破産宣告を受けることとなった。
本件は、ライベックスの販売した商品が詐欺商品であることを前提として、原告らに対して融資を行ったオリックス、千代田生命、被告及びアプラス並びに千代田生命及び被告の融資について保証を行ったあさひ銀クレジットが、ライベックス及びライベックスの代表取締役であった千葉隆(以下「千葉」という。)と共同して右詐欺商品を販売したものであるから、ライベックス、オリックス、千代田生命、被告、アプラス、あさひ銀クレジット及び千葉は、原告らに対して共同不法行為を行ったものであり、それにより原告らは既払のローン返済金等の損害を被ったとして、原告らが被告に対し、共同不法行為に基づく損害の賠償を求めるとともに、原告らのうち被告からの融資を受けた者の関係では、被告にいわゆる貸手責任の債務不履行が認められるとして、債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案である。
一 原告らの主張
1 原告ら
原告らは、ライベックスが販売した区分所有権又は区分所有権をさらに細分化した共有持分権を購入した者である。原告らの大多数は、ライベックスから物件を購入したが、ライベックスから購入した第三者からの転売によって取得した者もいる。
原告らは、オリックス、千代田生命、被告、アプラスのうち一社ないし二社以上から物件購入資金の大半を借り入れて物件を購入した。
2 ライベックスによる詐欺商法
(一) ライベックスは、昭和五五年に城山産業株式会社として設立された。
ライベックスは、当初、学生向けの賃貸用マンションの建築・販売を行っていたが、その後、ホテル用物件の分譲を開始した。初期の段階のホテル用物件は、一室ごとに販売されていたが、次第に一室をさらに細分化して販売する方式をとるようになった。
(二) ライベックスは、次の各ホテル等を各室ごとに区分所有登記しただけでなく、多くは各室(区分所有権)をさらに分割して共有持分として小口化し、これにオリックス、アプラス、被告及び千代田生命の四社の提携ローン会社から九五パーセントもの売買代金融資をつけるとともに、売買契約締結と同時に、ライベックスないしライベックスの子会社が長期間にわたる賃料保証をして販売物件を購入者から一括して借り上げる方式で販売した。
(1) ビー・アンド・ビー渋谷(物件の概要は別紙物件目録一記載のとおり)
ライベックスは、昭和六〇年一月、ビー・アンド・ビー渋谷を建築、竣工し、同年四月オープンさせた。ビー・アンド・ビー渋谷の販売は、建物の完成に先立って昭和五九年から行われた。
ビー・アンド・ビー渋谷は、一階部分の二区画の店舗を除く専有部分(一三三室の客室)が販売され、販売と同時に、ライベックスの子会社である株式会社ビー・アンド・ビー(以下「ビー・アンド・ビー」という。)との間で、「ビー・アンド・ビーホテル・コンドミニアム賃貸運営代理契約」が締結された。
客室の当初販売価格は、一室一三八〇万円から二三〇〇万円であった。
(2) ビー・アンド・ビー新宿(物件の概要は別紙物件目録二記載のとおり)
ビー・アンド・ビー新宿は、昭和六一年一一月二九日に新築され、昭和六二年二月一〇日にオープンした。ビー・アンド・ビー新宿の販売は、その建築中から進められ、昭和六〇年七月ころから昭和六一年二月ころにかけて契約の締結がなされ、新築時にはほとんどの物件が売却済みとなっていた。
販売総数は、一階の店舗を除く専有部分の客室一九九室であり、各室とも一〇口に分けて総口数一九九〇口が販売された。
(3) ビー・アンド・ビー木場(物件の概要は別紙物件目録三記載のとおり)
ビー・アンド・ビー木場は、昭和六二年二月に新築され、同年三月一六日にオープンした。
ビー・アンド・ビー木場は、二九七戸の客室部分が販売され、販売と同時にライベックスとの間で「ビー・アンド・ビー木場土地付区分建物賃貸借契約書」が作成された。
各専有部分全体の販売価格は二八〇〇万円から一億〇八〇〇万円であったが、ライベックスは、各客室の区分所有権をすべて一口四〇〇万円の共有持分権に細分化して販売した。
(4) ホテル三條苑(物件の概要は別紙物件目録四記載のとおり)
ホテル三條苑は、昭和六一年一月に新築され、同年一二月にオープンした。物件の販売は、このころから平成元年にかけて行われた。
購入者は、本物件購入と同時に、ライベックスとの間で「ホテル三條苑 地上権付区分建物賃貸借契約」を締結し、運営会社に転貸して運営する契約をした。
販売総戸数は二〇〇戸、販売総口数一八三二口、一口六五〇万円であった。
なお、建物の敷地権は、所有権ではなく地上権であった。
(5) カレッジタウン八王子(物件の概要は別紙物件目録五記載のとおり)
カレッジタウン八王子は、八王子市大和田所在の大昭和紙工産業株式会社跡地を利用し、八王子にある各大学の学生用賃貸マンション及びホテルとして建設された施設である。
一万三二四二平方メートルの敷地に八九五室(うちホテル二七〇室)を有しており、ABCの三つのブロックに大別され、A棟は地上一〇階駐車場棟地下三階でマンション部分二九三室とホテル部分二七〇室、B棟は地上六階地下一階でスポーツ施設部分とマンション部分一八〇室、C棟は地上五階地下一階でマンション部分一五二室、その他セミナー施設などから成り立っている。
カレッジタウン八王子は、昭和六〇年一〇月ころに着工され、昭和六三年四月にオープンした。
カレッジタウン八王子の販売は、昭和六一年八月から行われ、マンション、ホテルの各室部分を、マンションは一口四五〇万円で九六五口、ホテルは一口五五〇万円で一四三四口に分けて、区分所有のさらに共有持分として小口化して販売された。
(6) ホテルアーサー札幌(物件の概要は別紙物件目録六記載のとおり)
ホテルアーサー札幌は、昭和六三年七月四日に新築され、同年八月にオープンした。同ホテルは、客室二九九室を有する都市ホテルであり、これに検診と医療機能を備える医療施設を併設している。
ライベックスは、平成元年三月からホテルアーサー札幌の分譲を開始し、二二九室を、さらに細分化された共有持分の形で販売した。販売価格は、一室当たり一億五二〇〇万円から三億四〇〇〇万円であった。
(7) プレジデントヒルズ上祖師谷(物件の概要は別紙物件目録七記載のとおり)
ライベックスは、昭和六三年六月一四日に新築されたプレジデントヒルズ上祖師谷を平成二年一月二九日に取得した。ライベックスは、同年八月までに、七室中の三室について、細分化して共有持分の形で販売し、販売と同時にライベックスがこれを一括して借り上げ、ライベックスの指定する運営会社が建物全体を共同住宅として一体運営するものとされた。さらに、それと同時に、例外なく「プレジデントヒルズ上祖師谷一括売却協定」が締結され、契約から一〇年を経過した後一五年に達するまでの間に、ライベックスの手によって一括して売却することが合意されていた。
(8) ビー・アンド・ビー八王子(物件の概要は別紙物件目録八記載のとおり)
ライベックスがビジネスホテル部門の第一弾としてオープンさせたのがビー・アンド・ビー八王子である。ビー・アンド・ビー八王子は、昭和五八年八月、東京都八王子市に建築され、同年一〇月にオープンされた。
(三) 原告らが購入した物件は、別紙購入物件目録記載のとおりであり、同目録購入者欄記載の購入者が同目録購入物件欄記載の物件を同目録購入金額欄記載の金額で購入し、同目録借入先欄記載の金融機関から購入代金の大部分を借り入れて支払った。
(四) ライベックス商法の金融商品としての性格
ライベックスによる不動産小口化商品の販売は、提携金融機関と共同することにより、一種の金融商品、不動産による金融商品として行われた。
ライベックスは、これを「ホテルコンドミニアムシステム」と名付け、自らも金融商品として位置付けた。
「ホテルコンドミニアムシステム」とは、オーナーがわずかな自己資金と長期返済の借入金を利用してホテルの一室又はその細分化されたものを所有し、ホテルの管理、運営に関する一切の業務をライベックス(又はビー・アンド・ビー)に委託して、予め定められた一定額を毎月確実に受け取れるシステムであるとされた。
「ホテルコンドミニアムシステム」は、不動産小口化商品を提携金融機関の提携ローンを組み合わせた不動産投資システムとすることにより、一種の金融商品としたシステムである。
それは不動産投資という外形を持ちながら、不動産の実態とは関わりなく、投資家に投資に応じた一定割合の配当を保証することを目的としたシステムである。そしてそのような不動産の実態と関わりのないシステムが商品化しえたのは、その投資の大部分を購入不動産を唯一の担保に提携金融機関が提携ローンという形で貸し付ける制度を取り入れることにより、購入者は不動産の実態評価をすることなく、投資額・借入金・配当額・返済金・税金などの金額的投資要素を主として判断すれば、投資が可能となったからにほかならない。このように提携ローンは、本件不動産による金融商品を不動産の実態評価から切り離し、一定額の配当を得る投資目的の商品として純化し、消費者をして簡単に商品を購入させる役割を果たした。この「提携ローンを組み込んだ不動産による金融商品」という特性こそ、ライベックスの不動産小口化商品の際立った特徴である。
したがって、ライベックスの「ホテルコンドミニアムシステム」ないし「ホテルコンドミニアム・オーナーズシステム」というものは、少額の自己資金と長期のローンを活用してホテルなどの部屋の小口共有持分を取得し、同時にこれを一括して管理会社に管理・運営委託し、そのホテル経営の収益から一定の割合の毎月確実な収入を受領するシステムであると言える。このシステムを顧客から見るなら、少額の自己資金と長期のローンによる投資を行い、これに対する投資額に応じた配当を長期に保証されたシステムと言え、それ以外のいかなるものでもない。このシステムが、利率や税金面から定期預金や国債などと比較され、それと同様な金融商品であると称されるのも、当然である。確かに、ホテルなどの部屋の小口共有持分の取得と賃貸という形式をとっているため、不動産取引という側面も有しているが、投資家は、不動産としての利用をまったく予定しておらず、それは提携金融機関の提携ローンによって価値あるものと事実上保証されている安全な不動産取引であり、投資家の関心は主として、将来ホテルなどの価値が上昇し、転売によるキャピタルゲインが得られる見込みという点に絞られているシステムなのである。
(五) ライベックスの詐欺行為
(1) ライベックス商法の詐欺性
① ライベックスが販売した本件金融商品は、各物件の区分所有権ないし区分所有権の共有持分が実勢価格をはるかに上回る額で販売されており、転売をして元本割れさせないことが販売当初から不可能であり、また、賃料も高額の販売価格を基礎に設定されていたため、各物件の実際の稼働率及び経費から算出しても、右設定賃料の支払を続けることが不可能であり、したがって購入者が金融機関からの借入金の利息の支払すらできないことが当初から明らかな欠陥金融商品であった。
② ライベックス社員は、販売物件が国土法の事前承認を受けた価格であるとか、都心の一等地、元華族の土地、ステータスの高い物件であるなどと偽って、販売価格の高額性に気づかせないようにするとともに、資産価値を偽って実勢価格をはるかに上回る高額の物件であるかのように欺罔した。さらに、ライベックスが信用のある会社であり、賃料の支払が確実であって、安全で確実な商品であるかのように欺罔した。また、ライベックス販売員は、転売によってキャピタルゲインが得られるとか、元本の二倍、三倍の配当があるなどと全く根拠のない宣伝をした。
③ ライベックスは、本件金融商品を借金とセットにすることによって節税効果があると誇大宣伝をした。また、土地税制が恒久的であるかのように偽り、節税効果が長期間ローンに伴うかのように欺罔した。
これらの欺罔によって、原告らは、ローンの返済が終われば賃料が収入となり、いわば、過去に負担した金額を保険料と見立てた「私的年金」保険を買うものと誤信したのである。
(2) ライベックスによる本件各商品販売の方式
① 契約の一体性
本件各商品に関する契約書は、重要事項説明書、地上権付区分建物売買契約書、地上権付区分建物賃貸借契約書、管理規約、(物件により、地上権の承継等に関する確認書)が一体として製本されている。
プレジデントヒルズ上祖師谷については、製本されてこそいないが、ライベックスに委託して将来一括売却することを内容とする一括売却協定書が右の文書と同時に作成されている。
② 小口共有持分の販売
本件各物件の売買単位は、一室売り又は一室をさらに細分化した共有持分の口数で販売された。一口当たりの販売価格は、四〇〇万円台から六〇〇万円台のものが多く、最高でも二〇〇〇万円余であった。
③ 売買対象物件を特定しない売買
ホテル三條苑の一口のみの販売の場合には、売買契約書及び重要事項説明書上、契約時に部屋が特定されていなかった。
また、ホテルアーサー札幌においても、ほとんどの原告は、売買契約締結の際、売買対象物件を特定しないまま契約書の交換を行った。
売買契約書を交換した段階ですら売買の対象物件が特定されていないことは、本件の各契約が内実をほとんど失っており、詐欺的な金融商品であることを示すものである。
④ 売買契約と不可分の賃貸借契約
本件各物件の賃貸借契約は、売買契約書を前提に作成されており、ホテル三條苑の賃料は、販売価格の四パーセントを年間の総賃料として、月額で特定している。
ライベックスは、各物件について、専有床面積当たりの販売価格を定め、それをもとにして賃料額を定めた。しかし、ライベックスは、賃料が客室の室料をもとに算出される金額であるかのように偽った。
⑤ ライベックスによるローン会社の指定
ライベックスは、本件物件販売において、提携ローンを用意し、物件購入者にローン会社を指定して販売を行った。
また、ホテル三條苑の場合、販売開始から昭和六三年七月までは、千代田生命がローン会社として指定されていたが、その後、オリックスがローン会社となった。
カレッジタウン八王子の場合は、重要事項説明書に金銭の貸借に関する金融機関名として、昭和信用保証の名が印刷され、勧誘の際に使用された「購入プラン」にも、昭和信用保証の名が記載されていた。
このように、売買契約、賃貸借契約、提携ローン契約は不可分一体のものとされていた。
⑥ 提携ローンの特徴
本件提携ローンは、会社によって多少の違いはあるが、基本的には共通した内容のものだった。
⑦ ローン契約手続はライベックスが代行
ローン契約申込手続は、定められた用紙に、記載例に従って記入し、ライベックス販売員に交付する方式で行われた。そして、千代田生命もオリックスも、わずかな例外を除いて、原告らとは一切接触していない。
また、ローンの決定は、ライベックスの契約管理部からの文書で連絡され、所有権の移転登記は、一室の共有持分すべての売買が終了した時点で行われ、それと同時に抵当権設定登記が行われた。
⑧ 以上のように、形式上は三個の契約の形をとっている売買契約、賃貸借契約及び金銭消費貸借契約は、契約実態としては一個の契約である。すなわち、経済目的が、節税であり、私的年金であり、転売による資金回収あるいはキャピタルゲインの取得であるという一つの投資目的であり、その目的を実現するための法形式上の仮託にすぎないからである。本件不動産小口化商品販売は不動産売買の形式をとるが、買主は決して不動産を使用することはできず、同時に一括賃貸をしているため自己の意思により収益を上げることもできない。結局、投資額(販売代金)の元本以上のもの(キャピタルゲイン)が確保されることと、元本に対する配当である賃料を受け取ることが契約の目的となる。原告らの行為は、頭金等の金銭を支払い、さらにローンを組んで間接的に金銭を支払い、その効果として経費を差し引いた賃料という金銭を受け取るという行為のみである。
ライベックスはこの不動産小口化商品の販売を、「オーナーズシステム」と名付けていた。ライベックスのパンフレットでは、「ライベックスが提供するオーナーズシステムは、『不動産』+『借金』+『収入』十『節税』+『運営・管理』という、資産形成に決して欠かすことのできないファクターをあらゆる角度から検討、網羅した理想的な運用システムです。」と宣伝され、ライベックスは、(ⅰ)単なる不動産の売買ではなく、(ⅱ)ローンとセットされた商品であり、(ⅲ)保証された賃料をライベックスが支払うことを約束しており、(ⅳ)節税効果もあり、(ⅴ)運営・管理はライベックスが責任をもって一切行う、という総合的な小口化された不動産による金融商品であることを宣伝していた。
原告らは、本契約をいわば一般の「終身年金保険」と同様のものと理解して契約したのである。
(3) 「元本」保証による詐欺商品性
① ライベックスによる「元本」保証
イ ライベックスは、(ⅰ)本件商品の「元本」となる不動産が優良な物件であり、(ⅱ)区分所有権ないし区分所有権をさらに細分化した共有持分権であっても十分に転売可能であり、(ⅲ)物件として確実に値上がりするため転売すればローンの残債務を返済した上頭金などの投下資金を回収することができる、と宣伝し、「元本」が確実に保証され、購入者が「元本割れ」による損害を被るようなことはないと宣伝し、購入者にそれを信じ込ませた。
ロ しかし、ライベックスの販売した本件各物件は、ホテル等の区分所有権ないしは区分所有権をさらに細分化した共有持分権であるため、実際には売買される市場も存在しないものであった。
ホテルの一室のように、法律的には区分所有権の対象とすることができるものであっても、建物全体の有機的な使用によって初めて有効に使用できる権利や区分所有権をさらに細分化した共有持分権は、これを売却しようとしても、取引市場で任意に売却することは到底できないものであって、これを取引市場に乗せて売却処分するためには一括売却による共有物分割など多大な時間と費用をかけざるを得ない。
したがって、これらの権利自体の評価をする場合には共有物であることによる減価評価をしなければならず、建物全体の評価額から三〇パーセントの共有物減価を経たものが適正な評価額となる。
右適正な評価額と、ライベックスの販売したホテル等の区分所有権ないしさらにそれを細分化した共有持分の価格とを比較すると、ライベックスの販売価格は、ホテル三條苑については適正価格の二・三六倍、カレッジタウン八王子については二・一四倍、ホテルアーサー札幌については二・七四倍、ビー・アンド・ビー新宿については二・四四倍、ビー・アンド・ビー木場については二・七七倍、ビー・アンド・ビー渋谷については一・七一倍、プレジデントヒルズ上祖師谷については三・一九倍であった。
ハ このように、本件各商品の「元本」である各物件の「物件全体としての交換価値」は、販売当初から販売価格を下回っており、その時点で既にライベックスが宣伝し約束した「元本」保証は虚偽のものであり、詐欺商品であった。
② 資産価値についての誇大かつ虚偽の説明
イ ライベックス販売員は、本件各商品を販売するに際して、様々な手法を用いて、本件各物件が資産価値の高い物件であると誇大かつ虚偽の説明をし、各物件の実勢価格をはるかに上回る価格で販売した。
ライベックスは、ホテル三條苑を一室四五五〇万円で販売したが、専有部分の面積は一六・四六平方メートルであり、坪単価としては九〇〇万円を超える。しかし、敷地が所有権ではなく地上権であるにもかかわらず坪単価が九〇〇万円を超えるという金額は、当時の実勢価格の二倍をはるかに超える金額である。
また、ライベックスは、ホテル三條苑の販売に当たって、現在の実勢価格が坪単価四〇〇〇万円であると説明していたが、虚偽も甚だしい。
さらに、国土法の規制は土地取引に関する価格設定であるにもかかわらず、建物価格も規制された価格であるかのような説明をも行った。
ロ カレッジタウン八王子のホテルのAタイプ一口(一七・二一平方メートル、共有持分割合四分の一、土地持分割合一二五万九八六四分の四三〇)について、ホテルの一室のさらに共有持分であることの評価減を無視して単純に計算しても、土地約一六〇万円と建物約四三〇万円の合計約五九〇万円の四分の一で、約一四七万五〇〇〇円の評価となる。ライベックスは、これを約三・七倍の五五〇万円で販売し、当該物件が右金額相当の価値があるかのように誤信させた。
ハ ライベックスは、ビー・アンド・ビー新宿の物件を、一口四〇〇万円ないし四五〇万円で販売したが、その際、「現在不動産を購入するのに最低二〇〇〇万円以上という時代に、しかも、歌舞伎町という場所で四五〇万円という価格は、誰にでも購入可能なプライスゾーンです」とパンフレットに記載し、通常の区分所有権の価格と、区分所有権の対象とされることがほとんどないホテルの一室のさらにその共有持分であるビー・アンド・ビー新宿の価格とを故意に混同させ、あたかもビー・アンド・ビー新宿の物件が破格の安値であるかのように思わせた。
ニ ライベックスは、ビー・アンド・ビー木場の物件を販売する際、「現在不動産を購入するのに最低二〇〇〇万円以上という時代に、しかも都心部の商業地域で四〇〇万円という価格は、誰にでも購入可能なプライスゾーンです」とパンフレットに記載し、根拠薄弱な数字でビー・アンド・ビー木場の物件が破格の安値であるかのように思わせた。
ホ ライベックスは、プレジデントヒルズ上祖師谷の価格が時価の二倍をはるかに超える金額であったのに、その販売の際、様々な手法を用いて、そうではないかのように誤信させた。
③ 提携ローンによる資産価値についての欺罔行為
イ 不動産について、当該不動産のみが担保物件とされる場合、ローン貸付額は当該不動産の価格を上回らないことは社会通念とされている。
したがって、本件金融商品について、ライベックスが実勢価格からかけ離れた高額な価格設定をしたにもかかわらず、被告を始めとする金融機関は、その価格の九割以上の提携ローンをつけ、物件の価格が適正な価格であるかのように欺罔したものである。
ロ ライベックスは、不動産の小口化と提携ローンを利用して、カレッジタウン八王子をあたかも適正価格であるかのように欺罔し、著しく高額で販売した。
④ 高額の地代負担についての説明をしなかったこと
ホテル三條苑の地代は、公租公課の八倍という異常に高額な設定がなされており、地代が極めて高額な水準にあることは物件の評価に大きな影響を及ぼす事実であって、契約の重要な要素となるものであるが、ライベックスの販売員は、原告らに対し、そのような説明をせず、不作為の欺罔をしたものである。
⑤ 値下がりしないとの説明
本件金融商品は、その要素となる物件の価格が実勢価格とかけ離れた高額な価格であったため、投下資本(購入代金)の回収は当初から不可能であり、不動産価格が大きく変動していたことを考慮すれば、むしろハイリスクな金融商品であったのに、ライベックス社員は、販売活動に際してリスクの説明を全く行わず、不作為の欺罔をしたものである。
⑥ 共用部分など付加価値のある物件として販売しながら共用部分を譲渡したこと
ライベックス販売員は、各販売物件について、分譲されない店舗やレストランなどがあって、さまざまな付加価値のある物件であると説明したが、ライベックスは、これらを譲渡してしまったのであって、付加価値に関するライベックスの説明は欺罔に当たる。
⑦ 「節税効果」の宣伝で安く購入できるかのように宣伝して高額に売りつける行為
ライベックスは、年間の節税効果を一二か月で除した上、月平均の実質持ち出し額を示しているが、節税効果は一年が終了して現れるもので、その間にも毎月のローン返済をする必要があるのであって、その点についての説明は十分になされていないから、節税効果について実際よりも誇大な印象を与えるような説明がなされている。
(4) 「利回り」保証に関する詐欺商品性
① 高額な物件販売価格をもとに設定された支払不能の賃料
ライベックスは、本件の金融商品化された物件販売を進めるために、物件販売価格を高額に設定し、物件売買価格に一定の率(年率四パーセントあるいは六パーセントなど)を乗じて算定される賃料を保証したが、これらの賃料はもともと支払うことが不可能なものであった。
カレッジタウン八王子のホテルは、一口五五〇万円で販売口数は一四三四口であるから、販売価格総額は七八億八七〇〇万円であり、年五パーセントの保証賃料の総額は、三億九四三五万円に上る。これに対し、ホテルの年間売上げは、年間稼働率を六割としても約五億一四三二万円にしかならないため、年間売上げの約七七パーセントを保証賃料の支払に充てなければならず、支払は到底不可能である。
また、ビー・アンド・ビー渋谷は、いわゆるビジネスホテルであって、一般のシティホテルのように結婚式や宴会、イベントによる高い収入が期待されるわけでもなく、ホテル需要から見ても長期間にわたって八〇パーセントの稼働率を維持することが無理なことは、ライベックスにおいて当初の段階から判明していたことである。ライベックスは、このような高額の賃料保証が可能であるかのように偽って販売した。
② 各物件の稼働率、収益率、経費からは到底支払えない賃料
ライベックス社員は、立地条件がよいとか、著名な人が購入していてステータスが高いとか、メディカルクラブの会員が利用するので稼働率は一二〇パーセントにもなるなど、誇大な宣伝を繰り返し、賃料保証の確実性を強調した。
ビー・アンド・ビー新宿については、一口四〇〇万円ないし四五〇万円のものが一九七〇口、一口八〇〇万円のものが二〇口販売されたから、ビー・アンド・ビー新宿の販売総額は八〇億四〇〇〇万円ないし九〇億二五〇〇万円であり、年間の配当保証額は、その六パーセントである四億八二四〇万円ないし五億四一五〇万円であるところ、稼働率が一〇〇パーセントであるとした場合の年間総売上は五億二三七七万五〇〇〇円である。そうすると、配当保証額が四億八二四〇万円であると仮定しても、配当保証額は年間総売上の九二・一パーセントを占めることになり、人件費その他のコストがかかることを考えると、配当保証額を払い続けることは不可能である。
③ ライベックスを信用のおける会社と誇大宣伝し、ライベックスによる賃料保証は安全・確実と欺罔して販売
ライベックスは、企業体質も脆弱で、その事業についてもそれほど信用はなかったが、販売に際しては講演会を開き、一流紙で派手に新聞広告を出し、写真をふんだんに用いた高級感のあるパンフレットを準備し、一流企業の外観を装うために多額の販売管理費を費消した。その上、大企業が株主にいるとか、提携ローンがついているのはライベックスが信用できる会社だからだとか述べて、ライベックスが信用のおける会社であるかのように欺罔した。
また、ライベックス販売員は、株主に大手企業が連なっており、安心な会社であると述べて、賃料保証が安全確実であると欺罔した。
④ 各物件の運用上の困難に関する情報を全く提供せず、将来運用実績がますます上がるので保証賃料も確実であると欺罔
ライベックス販売員らは、各物件について、ライベックスないしライベックスの子会社などが管理・運営するので管理・運営上の問題は全くないとして、各物件の運用上の問題点や困難について一切言及せず、運用実績は将来ますます上がるので保証賃料の支払も確実であるかのように購入者に説明した。
また、ライベックスは、ホテルの利点としては、低料金であることを強調しながら、高配当を強調するため、当時は消費者物価指数が安定していたにもかかわらず、利用料金が上昇していき、それに応じて配当額が上昇すると欺罔した。
⑤ 虚偽の賃料保証の上に「節税効果」「私的年金」を誇大宣伝
ライベックス社員が強調した「節税」効果や、「私的年金」は、賃料の支払が確実である場合に初めて実現するものであるが、ライベックス社員は、賃料の支払が確実でないのに、節税効果や私的年金の利益を享受できると説明した。さらに、税制は時期に合わせて変更されることが予想されるにもかかわらず、長期のローン期間にわたって税制が変化せず節税の効果が得られるとの虚偽の事実を告げた。
⑥ 断定的な判断の提供により確定した賃料が得られるものと欺罔
ライベックス販売員は、契約の締結に際し、賃料を保証しただけでなく、利益を得られることが確実であると誤信させるような断定的判断を提供した。
(5) 「キャピタルゲイン」に関する詐欺商品性
ライベックス販売員らは、本件で取得した物件を転売できるかを疑問に思った原告らが質問すると、ライベックスが買い取ると約束したり、実際に流通している市場があるかのようにライベックスの発行するパンフレットを見せるなどし、転売の可能性につき原告らを錯誤に陥らせた。
実際には、ホテル等の区分所有権のさらに共有持分である本件不動産小口化商品は、もともと販売価格そのものが著しく高額に設定されている上、破綻必至の構造的な詐欺商品で、当初から値上がりする見込みも転売の可能性もなく、キャピタルゲインの取得など全くあり得ないものであった。
さらに、ホテル用の物件の一室ないしその一室をさらに細分化した持分権は、一般のマンションのようにその物件を独立して運用することができないため、ホテルとしての営業実績や管理・運営の状況を度外視して物件の敷地及び建物の不動産としての価格を決定することができない。
しかし、ライベックス販売員は、販売物件がそのような特殊性を有する物件であり、またこのように細分化された物件を転売するための市場は形成されていないのに、いったん取得した物件を転売して資金回収することが簡単にできるかのように説明し、あたかも将来取得価格をはるかに超えて転売することができるかのように物件購入者を欺罔したのであり、ライベックスは、キャピタルゲインの取得について断定的判断を提供したものである。
プレジデントヒルズ上祖師谷においては、ライベックスと顧客との間で、売買契約、賃貸借契約と同時に一括売却協定が締結されており、これ自体が、キャピタルゲインの取得を確実であるかのように錯覚させる欺罔である。
(6) 購入をあおる販売行為
① 顧客をあおり立てる販売行為
ライベックス販売員は、今買わないと絶好のチャンスを逃すという言い方をし、顧客に焦燥感を抱かせ、顧客が冷静な判断をする機会を与えなかった。
② 実際には意味のない特典をあげての販売行為
ライベックスの販売員は、物件購入者が様々なレジャークラブの施設を会員と同じ条件で利用できるかのような虚偽の説明をした。
(7) 販売が倒産を招く事情についての説明の不存在
ライベックスが販売した各物件のいずれについても、その性質上、売れば売るほどライベックスの収益状況が悪化し、莫大な負債を抱えて倒産せざるを得ない構造を持っているにもかかわらず、ライベックス販売員は、本件各区分所有権の販売の際に何らの説明もしなかった。
3 被告の共同不法行為責任
(一) ライベックスとの提携
(1) 被告は、ライベックス及びあさひ銀クレジットとの間で、昭和六一年八月五日、「ライベックスローンに関する約定書」を合意した(以下「本件協定」という。)。
本件協定において、融資条件は、年齢制限が個人の場合二〇歳以上、年収三〇〇万円以上、融資額四〇〇〇万円以内、融資期間二五年以内、資金用途はライベックスが販売する不動産の購入資金と定められた。
右融資制度は、「ライベックスローン貸付制度」と名付けられた。
本件協定により、ライベックスから物件を購入する者が、ライベックスのあっせんにより、被告から購入資金を借り入れる場合に、ライベックスが購入者らに遵守、履行させるべき事項等についての基本的な取り決めがなされた。
(2) 追加覚書の締結
被告は、昭和六一年八月五日、ライベックス、ビー・アンド・ビー及びあさひ銀クレジットとの間で、ライベックスが建築販売する「リースホテルの各専有部分と共有部分の持分」の購入者に対して被告が実行する「ライベックスローン」の保証に関し、「ライベックスローンの保証に関する追加覚書」を締結した。
(3) ライベックス販売物件ごとの提携ローンの合意
被告は、ライベックスとの間で、右協定に基づいて、少なくとも、ビー・アンド・ビー渋谷及びビー・アンド・ビー新宿の各物件について、ライベックスがこれらの物件の区分所有権ないしその共有持分を販売するに際して、被告が物件購入者との間でローン契約を締結し、ローンを実行することを内容とする合意(当該物件に関する提携ローンの合意)をなした。
右の物件ごとの合意は、当該物件の購入者でライベックスからローン付けすることを要請してきた者すべてを対象とするものであった。
そして、右合意は、あらかじめ被告が当該物件についての審査を行った上で合意されたものであり、各ローンの申込みの都度、当該物件に関する担保評価等の審査を要しないことを内容の一つとするものであった。
しかし、同時に、被告は、ローン希望者との面談、ローン内容の説明、ローン申込書及び添付書類の授受、ローンに関する質問への回答等、直接ローン希望者と折衝する業務のすべてをライベックスに委ね、そのことも右各合意の内容とされていた。
(二) ライベックスとの共同性
(1) 融資制度と「ホテルコンドミニアム・オーナーズシステム」との関係
本件詐欺商法において、売買の対象とされている商品は、形式的にはホテルの部屋の小口共有持分である。しかし、単純な小口化だけでは商品価値が生まれることはなく、「ホテルコンドミニアム・オーナーズシステム」というライベックス特有の制度のもとにある小口共有持分として販売されることによって初めて、商品価値を獲得するに至ったのである。
そして、被告は、本件システム商品の内容を知って業務提携したものであるから、システム商品の共同開設者の立場を取得するのは明らかである。
(2) 被告のローン契約の実態
被告は、借入額を示す資料や、自宅など不動産を所有している原告らの不動産登記簿謄本を要求しなかったし、ローン申込者に他の負債があるかどうかについて全く調査しなかった。
被告は、ローンに関する説明等のすべてを販売会社であるライベックス社員の手に委ねたため、資産状況や負債の状況についての質問はなされず、このような申込みは、ローン申込み手続の名に値しない程度の代物であって、この事実は、被告がライベックス物件の個々の購入者の資産、負債等の資力についてはほとんど関心を持っていなかったことを示すものである。
また、年収による返済能力についても考慮していない。年収は三〇〇万円以上であればよく、他のローンなどの負債状況は調査しないのであるから、形式的な一定年収のある者であれば、その返済能力をほとんど考慮することなく貸付けを行ったものである。
(3) 融資制度による信用の付与
被告は、本件融資制度において、原告らにわずかな年収があれば、ホテルの部屋の小口共有持分を唯一の担保としてその購入資金の約九〇パーセント以上の金額を長期の元利均等返済方式で貸し付ける仕組みを作った。
このような融資制度によって、ホテルの部屋の小口共有持分の交換価値と収益性について、十分に信用できるものであるとの外観が付与されたのである。
(4) ライベックスとの手続上の一体性
① 被告は、ライベックス販売物件につき融資するに際して、物件購入代金とは別に、一口当たり二〇万円までをローン手数料及びあさひ銀クレジットの保証料分として上乗せして貸し付けた。
② 被告は、ローン金額の決定までもライベックスの社員に委ね、ライベックス社員が、各物件購入希望者との間で事実上ローン金額を決定していた。
③ 被告は、原告らが融資契約を完了するまで、一度も各原告らと直接交渉したことはなかった。
④ 被告は、同社が融資する各ローンの貸付金につき、ローンの各借主がライベックスから受領する賃料を代理受領することができる旨の契約を、各ローン借主との間で締結した。
⑤ 被告は、被告が提携していること及びこれにより物件価格が信用できる旨の宣伝をライベックスが行うことを許した。
(5) 提携金融機関とライベックスとの利益共同体構造
本件商品システムには、「長期ローン」制度が組み込まれているので、販売勧誘活動は同時に融資勧誘活動でもあり、ライベックスの販売活動にそのまま便乗して融資を伸ばせる仕組みとなっていた。その上、直接の融資審査をなくして簡略な書面審査だけとし、手続を定型化すれば、商品販売と融資手続とを一人の担当者が兼ねることができ、これをライベックスに行わせることによって、金融機関は、自己の経費をほとんどかけずに融資実績を巨額に伸ばすことができたのである。
このように、被告とライベックスとは、本件詐欺から生まれる巨額の利益を共同で享受するため、商品の仕組みから販売と融資勧誘、さらには契約手続と履行まで一体となって共同行動し、一種の利益共同体を形成していたというべきである。
(三) ライベックス詐欺商法についての被告の認識
(1) 「オーナーズシステム」についての被告の認識
ライベックスの「ホテルコンドミニアム・オーナーズシステム」による不動産の販売の「提携ローン」会社となる場合には、通常の物件販売と異なり、販売後の物件の運用とそれによって生じる収益、ひいては物件を運用する会社、管理・運用のノウハウ、その物件の営業状態が、物件売却後も引き続き重要な意味を有する。被告は、ライベックスの「ホテルコンドミニアム・オーナーズシステム」に提携金融機関として関与する際、「ホテルコンドミニアム・オーナーズシステム」による販売物件をライベックスないしその子会社が管理、運用し、ライベックスないしその子会社が物件購入者との間の賃貸借契約に基づいて約束された賃料を支払うことによって初めて毎月のローンの支払が確実になされるものであることを十分認識していた。
そして、被告は、各ホテルの帳簿類など、各ホテルの実績が把握できるような資料をライベックスから入手し、これらの資料について分析を加えることによって、ライベックスにおいて粉飾が行われていたことやライベックスのホテル経営が大赤字であることを十分認識していた。
したがって、被告は、ライベックスと提携関係に入る時点で、各物件の収益が保証賃料を支払うに十分であるとは考えていなかったにもかかわらず、ホテル経営の実態を原告らが知り得ないことを奇貨として、各物件からの収益が確実であり保証した賃料配当が確実であると偽装してライベックスが販売することを認識、認容していたものである。
(2) 貸倒れリスクの分散
被告は、「貸金」の返済原資である賃料配当が滞ることがあることを認識、認容していたにもかかわらず、小口化と高利設定により貸倒れリスクを分散しながら、融資先を拡大し取扱高を増大させて利益を追求するため、原告らに対し、本件金融商品の中核である「借金」を設定することによって、ライベックスと詐欺商法を共同したのである。すなわち、被告は、小口化によってリスクの分散が図れることを期待して提携関係に入りライベックスの本件金融商品を共同して販売したのである。
(3) ライベックスによる販売方法等に関する被告の認識
① 被告は、本件協定の締結に際して、ビー・アンド・ビー新宿に関する物件の内容、ライベックスの販売実態等につき、ライベックスから資料の提供を受けて知り、その内容による物件販売、賃貸借契約の締結を了解した。
② 被告は、ライベックスがビー・アンド・ビー新宿の販売に際して、どのような書類を使用して販売を行うかを知っていた。
(四) 不動産特定共同事業法の制定
(1) ライベックスをはじめとして、不動産小口化商品等、不特定多数の資金又は不動産の提供者と事業者とが共同して不動産に係る事業を行う不動産共同投資事業が増加し、その後不動産市況の低迷によって不動産共同投資事業を行っていた不動産会社の経営が悪化し、事業参加者に大きな被害を与え、社会問題となった事例があったことから、事業参加者保護の仕組みを検討する目的で、平成四年九月に、建設省建設経済局長の招請を受けて不動産共同投資事業研究会が設置された。
(2) 不動産共同投資事業研究会の報告に基づき、不動産特定共同事業法が平成六年六月に公布され、平成七年四月に施行された。不動産特定共同事業法においては、次のような規制がなされている。
① 不動産特定共同事業者は、契約締結前、契約締結時、契約締結後定期的に、と徹底して継続的な情報開示義務を負う。
② 勧誘に際しては、相手方の判断に影響を及ぼす重要な事実を告げなかったり、不実のことを告げることは許されず、利益の獲得についての断定的判断の提供をしてはならない。
③ 不動産特定共同事業者は、第三者による金銭の貸付けの媒介等をしてはならない。
(3) ライベックスと提携金融機関である被告とが共同して創設した本件金融商品のために原告らを始めとする多数の被害者が発生したこと等を直接の立法事業として、ライベックス商法等の被害の再発を防止する目的で、不動産特定共同事業法が制定され、本件のような提携ローンが刑罰をもって禁止されることになったことは、ライベックス及びこれに加担し、共同した被告の違法性、詐欺性を裏付けるものである。
(五) 担保適正評価義務違反
被告は、本件商品の共同開発者であり、かつ、不特定多数の者に対して販売される不動産小口化商品の購入代金の大部分(一部の者に対しては購入代金の全額)を融資して売却不動産に担保権を取得する者として、原告らに対し、目的不動産が物件の売却価格にふさわしい担保価値を有する物件であるかどうかを適正に評価する義務、すなわち担保適正評価義務を負っていた。
本件の小口化され金融商品化された不動産の区分所有権ないし共有持分は、これを取得しようとする一般の者からは、容易にその客観的な交換価値を知ることができない。本件の販売に際しては、購入代金の全額ないし九〇パーセント以上もの金額が貸し付けられており、その担保となるものは、本件販売対象物である区分所有権ないし共有持分権だけであった。したがって、本件各物件を購入する者から見れば、購入代金についてのローンを組んでも、最悪の場合には当該物件を処分して返済に充てれば、処分により得られる代金によってローンの全額ないし少なくともその大部分の返済が可能であると判断されるのはむしろ当然の理である。
本件商品販売は、物件購入者をして「借金させるシステム」であり、本件商品を購入するかどうかは、購入者が借金をしても大丈夫かどうかを判断してのことである。その判断に際しては、ローンの唯一の物的担保となる本件各物件が借金(ローン)の担保物としての価値を有するかどうかが決定的に重要である。
被告のように販売業者と密接な関係に立つ金融機関は、売買目的物でありかつローン契約の唯一の担保権の対象物である本件各物件がローン金額に相応した価値を有するかどうか適正に評価する義務を負い、適正に評価した場合に比して目的物が著しく低い価値しか有しなかった場合には、目的物が客観的に有する価格を超えてローン債権を行使することができない、というべきである。
被告は、各物件の実際の価値を知る十分な資料を有していたにもかかわらず、あえて時価の数倍の価格で評価し、担保適正評価義務に違反して目的物の客観的な交換価値を数倍も上回る購入代金の全額ないし九〇パーセント以上もの金額を貸し付けて違法な融資行為をなした。
被告は、ライベックスの本件商品の販売を促進するために購入者である原告らに必要な金融を得させようと、購入者である原告らの借入れ能力を無視し、その年収や返済能力を無視したローン金額とすること等をライベックスと共同で決定した。
被告は、本件各ローン契約を締結するに際して、原告ら各自が本件各ローン以外にどのような負債、ローン上の債務を負っているのかを一切調査せず、またライベックスにこれらを調査させることすらしなかった。したがって被告は、各物件購入者が月々どれだけの返済能力があるのかについては、各購入者本人の年収額をライベックスを通じて調査しただけで、他のローン(例えば自宅の購入や建築に係るローン)等の返済をその約定に従って行った上で本件各ローンにどれだけ返済できる能力があるのかを一切調査しようとしなかった。そのため、被告の原告ら各自に対する各ローン契約は、実際上、返済能力を判断する上での最大の根拠となる年収制限を全く無視したものとなっていた。被告は、このような常識はずれの過剰融資のシステムを、ライベックスの本件各物件の販売を促進する目的で、ライベックスと共同して行ったのである。
(六) 被害者救済の必要性
本件詐欺商法において、毎月支払われる賃料は、直接原告らには支払われず、提携金融機関の指定する銀行口座に振り込まれることとされており、原告らはこれに加えて毎月のローン返済金と賃料との差額を同口座に入金する仕組みとなっていた。提携金融機関が原告らの負担で融資した金員は、その一部が「ローン手数料」、「保証料」、「特別手数料」、「公正証書作成料」などの様々な名目で提携金融機関に還流し、さらに、毎月のローン返済金の名目で返済されることになっていた。このように、提携金融機関は、貸倒れになる部分を除けば、十二分な利益を上げられる仕組みになっていたのである。
これに対し、原告らは、生活破綻をもたらすような巨額の債務を負担し、その支払に一生苦しまなければならない立場に追い込まれている。また、原告らが購入したホテルなどの小口共有持分は、現状では全く、又はほとんど利益を生まない権利であるのみならず、提携金融機関の担保にも入っており、固定資産税などの負担が重いだけの無価値な資産である。
このような不公平は、不法行為法によって救済されるべきものである。
(七) 原告らの損害
別紙購入物件目録購入者欄記載の購入者は、同目録購入物件欄記載の物件の購入により、同目録頭金欄、契約諸費用欄、ローン支払額欄記載の各金員をライベックスないし同目録借入先欄記載の金融機関に対して支払った。
もっとも、原告らは、ライベックスが平成三年一〇月ころに賃料の支払を停止するまでの間、ライベックスから賃貸借契約による賃料を受領しており、その金額は同目録受取賃料欄記載の金額である。
したがって、原告らに生じた損害は、別紙購入物件目録頭金欄、契約諸費用欄、ローン支払額欄記載の各金員を合計した金額から同目録受取賃料欄記載の金額を控除した金額であり、その結果は同目録損害額欄記載のとおりである。
(八) 被告の責任
(1) ライベックスによる本件の金融商品化された物件販売を実際に可能ならしめたのは、社会的にその存在を知られ、十分な信用力を有する金融機関が提携ローンとして購入代金の九〇ないし九五パーセントもの金銭を貸し付けるシステムがあったからである。
被告は、ライベックスによる販売活動の提携ローン先となって多数の顧客に多額の金員を貸し付けることによる収益に大きな期待をかけた。そのため、被告は、ライベックス商法により多数の顧客に対して将来多大な損害を与えることを予見し、少なくとも容易に予見し得たにもかかわらず、ライベックスとの間で本件協定等を締結し、ローンの支払が停止されるなどする場合を想定し、あさひ銀クレジットにその保証をさせることによって提携ローン先となったのである。
(2) 被告は、ライベックスによる本件の金融商品化された物件の販売に関して、本件協定等を締結するに際し、また本件協定第一三条に基づき、ライベックスの業績、同社の資本及び財務状況、ライベックスの販売する本件物件の原価及び販売価格、その収益性等を調査した。被告は、その調査の結果、ライベックスの資本が極めて脆弱であり、長期にわたる高額の賃料保証をしながら各物件の運営・管理を行えば、その賃料負担に耐えられず、ライベックスの経営が破綻することを十分に予見し、少なくとも容易に予見し得た。
それにもかかわらず被告は、前記貸付けをなすことによって得られる利益に期待して、あえて前記契約を締結したのである。
(3) ライベックスによる本件の金融商品化された物件販売は、それ自体違法性の高い「提携ローン」を不可欠の構成要素とすることにより行われた。被告は、そのことを十分に承知しつつ、自己の利益を追求するために、ライベックスの本件販売に共同・加担した。被告がライベックスの詐欺商法に共同・加担する中で不法な利益を得てきたことは明らかである。
被告の右行為は、原告ら購入者の犠牲のもとに自己の利益を図ってきたものに他ならず、それ自体不法行為であり、ライベックス商法に積極的に共同・加担して原告らに損害を与えた者として、ライベックス、オリックス、千代田生命、あさひ銀クレジット、アプラス及び千葉とともに原告らに対し損害を賠償する共同責任を負うべきものである。
4 債務不履行責任
(一) 担保適正評価義務違反
被告は、本件不動産小口化商品の共同開発者であり、かつ、不特定多数の消費者に対して販売される不動産小口化商品の購入代金の大部分ないし全額を融資して当該商品に担保権を取得する金融機関であるから、直接「融資」する原告らに対し、当該「融資」契約を締結するに当たっては、当該不動産がその売買代金に相応しい担保価値を有するかどうかを適正に評価する義務、すなわち、担保適正評価義務を負う。しかるに、被告は、この義務に違反し、当該不動産の客観的な交換価値をはるかに上回る「融資」を実行して、原告らに、前記3(七)記載の各損害を負わせたものであるから、これを賠償しなければならない。
右義務違反の具体的内容は、前記3(五)記載のとおりである。
(二) 貸手責任
(1) 被告の信義則上の保護義務ないし安全配慮義務
給付義務の履行は、信義誠実の原則に基づいてなされるべきものであり、契約関係に入った各当事者は、契約関係という特別な社会的接触の関係に入ったことから、互いに、相手方の生命、身体、財産的諸利益を侵害しない注意義務(契約上の保護義務)を負担する。「契約」という特殊な接触関係に入った当事者は、その人的信頼関係から特に相手方の法益を侵害しない配慮が要請されるからである。
金融機関と消費者との取引関係において、消費者が支配を及ぼしえない事情のもとで、金融機関を信頼して取引関係に入った消費者の財産的利益が、消費者の予期できない事情で不当に侵害されないように配慮すべき義務は、金融機関に対しても、一定の場合には認められるべきである。そして、本件金銭消費貸借契約は、まさに、かかる法理(いわゆる「貸手責任」の一類型)が強く妥当する契約類型である。
(2) 被告と原告らとの特別な社会的接触の関係
① 本件金銭消費貸借契約の性質
イ 対象商品の特殊性
本件金銭消費貸借契約は、「ライベックスローン」と名付けられ、ライベックスの本件金融商品の購入という特定の目的のために締結されたものである。ライベックスの本件金融商品は、「ホテルコンドミニアムオーナーズシステム」というシステム商品で、ホテルないしホテルと機能的に一体のものとして利用されるマンション等の一室又はその一室をさらに細分化した共有持分と「ライベックスローン」とをセットで販売するものである。
そして、ホテル等の一室ないし一室の共有持分は、購入者が使用、収益することを目的としない投資商品、金融商品であり、わが国において市場の形成されていない新規の不動産小口化商品であった。しかも、年収三〇〇万円以上(自営なら二〇〇万円以上)あれば、一口五〇万円(一室でも一五〇万円)程度の頭金を用意すれば、その物件だけを担保に購入できるという広く一般消費者を販売対象とした金融商品であった。
ロ 販売会社の特殊性
ライベックスは、財務、経理体制が極めて脆弱であり、ホテル経営のノウハウもなく、資産もなく、借入金にすべてを依存して事業展開していた新興企業、ベンチャー企業であり、被告はかかる新興企業と本件提携契約を締結して、右金融商品を一般消費者に対して大量に販売促進することを可能にした。
被告が提携ローンをつけなければ、ライベックスの事業展開が不可能であったことは証拠上明白である。
ハ 三位一体契約
ライベックスの金融商品は、その商品設計上、(ⅰ)ライベックスが消費者に本件不動産小口化商品を販売すると同時に、(ⅱ)ライベックスがこれを一括して借り上げて「配当保証」し、(ⅲ)その販売代金について被告が提携ローンを付すること、が不可分一体の関係にあった。右のどの要素が欠けても、ライベックス商法の展開は不可能であった。
② 「借金がメリット」と勧誘し、「確定配当」が返済に組み込まれ、その商品のみを担保として一律に長期ローンを付する特殊な金銭消費貸借契約
被告は、ライベックスを利用して、(ⅰ)消費者への勧誘に際して、「節税効果を得るためには、長期で多額のローンを組むことがメリットになる」と強調して勧誘し、(ⅱ)賃料名目で「確定配当」を保証することによって、右ローンの返済が月々少額の持ち出しで済み、さらに「節税効果」により実質的にはさらに少額の持ち出しで済み、しかも将来の「私的年金」になると説明し、(ⅲ)販売物件だけを担保にとって購入代金の九〇パーセントについて一律二五年ないし三〇年の長期ローンが組め、その物件を処分すれば「借金」がなくなるだけでなく、「キャピタルゲイン」が得られるとして、「ライベックスローン」を原告ら不特定多数の一般消費者に大量に販売した。
このように、被告と原告ら消費者との本件金銭消費貸借契約は、世上よく見られる「住宅ローン」の体裁を取りながら、それとは全く異質の契約である。すなわち、本件金銭消費貸借契約は、一般の住宅ローンとは異なり、(ⅰ)不動産小口化商品という購入者の使用、収益を目的としない特殊な金融商品を対象とし、(ⅱ)手持ち資金があっても、「借金」を多くすること、一口の頭金を増やすよりは購入口数を増やすことを強く勧められ、(ⅲ)購入者の収入、資産にかかわらず、その商品以外には自宅などの担保を要求されず、(ⅳ)その商品を処分すれば当然「借金」元本がなくなることを前提としてさらに「キャピタルゲイン」が得られること、(ⅴ)ライベックスという新興企業の「保証配当」が被告の「借金」の返済に組み込まれていることなどが購入者の契約締結の主たる動機となる特殊な契約である。
ライベックスの「配当」が、ほとんど同一の口座を経由して、そのまま右から左へ被告への返済に充てられるのであるから、事業収益の流れの実質から見れば、ライベックスと被告との共同事業に他ならない。
③ ライベックスによる金銭消費貸借契約締結の代行と同社に対する信用の付与(虚偽の外観作出)
被告は、ライベックスと提携契約を締結し、ライベックス社員に金銭消費貸借契約の締結を代行させることによって、自らは大幅に事務作業を省力化して容易に大量の顧客を獲得し、巨額の収益を上げるとともに、ライベックスという新興の企業と提携することによって、ライベックスが被告との提携ローンの存在を宣伝することを承認し、あたかもライベックスが信用できる企業であるかのような虚偽の外観を一般消費者に対して付与した。
④ 被告の消費者に対する圧倒的優位
被告は、大手の生命保険会社であり、その情報力、調査能力において、原告ら消費者とは比較にならない情報収集能力、情報分析能力、調査能力を有している。
⑤ 以上の各要素を前提に考えると、被告は、原告ら消費者が本件金銭消費貸借契約を締結することによって、不測の財産的損害を被らないようにすべき信義則上の保護義務ないし安全配慮義務が強く働くべき特別な社会的接触の関係に入ったというべきである。
(3) 被告の信義則上の注意義務の内容
① 被告は、前述のように原告らと特別な社会的接触の関係に入っており、本件金銭消費貸借契約に付随する信義則上の注意義務として、原告ら消費者に不測の財産的損害を与えないよう配慮する義務がある。
② ライベックスの商品は、確定配当の保証が現実に履行されて初めて一般消費者にとって購入に値する商品であった。
また、物件に処分性があり、かつ、客観的交換価値が購入価格に見合うものでなければ、購入者は、財産的価値に乏しい物件を購入させられたことになるのであるから、物件の処分性及び交換価値と購入価格との均衡も、購入者が不測の損害を被らないための要件となる。
③ ライベックスが確定配当を履行できるかどうかは、(ⅰ)ライベックスのホテル経営の実情(各ホテル及びライベックスの収益力)、(ⅱ)ライベックス自体の経営内容(ライベックスの健全性)を見て判断すべきことになる。
また、物件の処分性及び客観的交換価値については、(ⅰ)本件不動産小口化商品の流通性、市場性の実情、(ⅱ)不動産小口化商品としてのライベックス物件の不動産としての客観的価値、を把握すべきことになる。
そして、前述のような本件金銭消費貸借契約の特質に鑑みれば、被告は、原告ら消費者に対して圧倒的に情報力に優る金融機関なのであり、だからこそ、原告ら消費者は、そのような被告がその商品のみを担保として提携ローンを付することから、確定配当が確実なものであり、商品が処分性を有し、ローンに見合う価値を有するものと信頼するのである。したがって、被告は、原告ら消費者が不測の財産的損害を被らないよう、次のような注意義務を負うことになる。
イ 販売会社の経営内容、健全性を調査すべき義務
ライベックスは新興企業であり、見るべき資産もない会社であった。このような企業が消費者に対して本件不動産小口化商品としての特殊な商品を大量に販売するのであれば、右商品に提携ローンをつける場合には、消費者が不測の損害を被らないように、販売会社の経営内容、健全性を調査すべき義務がある。そして、ライベックスの経営内容、健全性に疑問がある場合には、提携契約の締結及び格別の金銭消費貸借契約をしないようにすべき注意義務がある。
ロ 販売物件及び販売会社の収益力についての調査義務
ライベックスの商品は、確定配当を保証することで月々持ち出し額が低額となり、消費者が買いやすい商品として設計されており、確定配当の保証がなければこのような商品を買う者は存在しなかった。
そして、購入者は、もし確定配当が得られなければ、実際には考えてもいなかった額のローン返済の負担という不測の損害を被ることは明らかであった。
したがって、被告には、ライベックスの確定配当の保証が実現可能かどうかを調査し、右保証に不安が生じる場合には、提携契約の締結及び格別の金銭消費貸借契約の締結をしないようにすべき注意義務がある。
ハ 物件の処分性及び交換価値を調査すべき義務
ライベックスの商品は、不動産小口化商品という流通市場の確立していない処分性に多大な疑問のある商品であった。
一方、本件金銭消費貸借契約は、「住宅ローン」の体裁をとって締結されており、購入者は唯一の担保として、購入した物件のみの差し出しを求められていたにすぎない。そうすると、購入者は、ライベックスの商品に処分性があり、しかも購入価格に見合う交換価値があるものと誤信することになった。
したがって、被告は、ライベックスの販売する物件の処分性及び交換価値について調査し、処分性がなく、あるいは交換価値が購入価格を大幅に下回ると考えられる場合には、提携契約の締結及び格別の金銭消費貸借契約を締結しないようにすべき注意義務がある。
ニ 過剰貸付けをしてはならない義務
およそ、貸金業者は、資金需要者である顧客又は保証人になろうとする者の資力又は信用、借入れの状況、返済計画等について調査し、その者の返済能力を超えると認められる貸付けの契約を締結してはならない。
仮に、本件ローンにおいて、その担保価値や返済原資としての「確定配当」を重視せずに、貸付けを実行したのであれば、それは事実上、無担保、無保証の貸付けと異なるところがない。
そして、貸金業者が貸付けを行うに当たって、当該貸付けが資金需要者の返済能力を超えると認められるか否かは、当該資金需要者の収入、保有資産、家族構成、生活実態等及び金利など当該貸付けの条件により一概に判断することは困難であるが、窓口における簡易な審査のみによって、無担保、無保証で貸し付ける場合の目処は、当面、当該資金需要者に対する一業者当たりの貸付けの金額について五〇万円、又は、当該資金需要者の年収額の一〇パーセントに相当する金額とされているところ、被告の原告ら消費者に対する本件「貸付け」が右限度を超えた過剰貸付けに当たることは明らかである。むしろ、相当数の原告に対し、本件ローン付商品を次々と買い増し(借り増し)させられ、年収額の数倍を超える事実上の無担保、無保証の貸付けがなされているのである。
(4) 被告の注意義務違反
被告は、前記各注意義務に違反し、ライベックスの経営内容、健全性を調査せず、ライベックスのホテル事業についての収益力についての調査をせず、物件の処分性及び交換価値を調査せず、原告ら消費者に過剰貸付けをなした。
よって、被告は、原告ら消費者に対し、ライベックスとの本件提携契約に基づく、ライベックス商品の販売を目的とした本件各金銭消費貸借の締結に当たり、原告ら消費者に不測の財産的損害を被らせないようにすべき前記各注意義務に著しく違反し、その結果として、原告ら消費者に損害を与えたのであるから、契約上の保護義務ないし安全配慮義務違反の債務不履行による損害賠償責任を負う。
なお、右注意義務違反は、金銭消費貸借上の付随義務違反としての債務不履行に該当するのみならず、いわゆる「貸手責任」の一類型としての過失の不法行為にも、そのまま該当するものである。
5 相続等
(一) A川三郎は、平成一〇年九月一一日死亡し、妻である原告A川二江並びに子である原告A川四郎及び原告B原三江が相続人となった。
相続分は、原告A川二江が二分の一、原告A川四郎及び原告B原三江が各四分の一である。
(二) C田四江は、平成一一年一月二日死亡し、子である原告C田五江、原告C田五郎及び原告C田六郎が相続人となった。
相続分は各三分の一である。
二 被告の主張
1 ライベックスの不法行為について
(一) 販売価額の高額性の主張について
原告らは、ビー・アンド・ビー新宿の販売価額が不法に高く詐欺が成立すると主張するが、被告は、本件協定成立前ころ、あさひ銀クレジットから、ビー・アンド・ビー新宿の敷地及び建物の評価は一〇〇億円強であると聞いていた。
販売価額が不法に高額で詐欺が成立するという場合には、ビー・アンド・ビー新宿の取得費、開発・販売事務費等の額、あるいは賃貸運営代理契約上の義務の負担について計算し、その取得利益額をも算定する必要があるところ、原告らは、これらについて何らの言及もしていない。
また、ビー・アンド・ビー新宿の所在場所、土地の面積、形状、建物の構造・用途等、契約上の物件表示内容に虚偽の事実はなかったから、ビー・アンド・ビー新宿の購入者らにおいて、販売価額についての判断をすることについて何らの障害はなかった。現に、原告らは、平成三年九月まで、ビー・アンド・ビー新宿の販売価額の高額性について異議を述べた事実はない。
さらに、ライベックス社員がビー・アンド・ビー新宿の販売に際して、将来値上がりすると述べたことがあった場合であっても、一般によくあるいわゆるセールストークであって、不法行為となる言動ではない。
(二) 「支払不能な高額賃料」の主張について
ビー・アンド・ビー新宿において賃料の支払義務を契約上負担したのはビー・アンド・ビーである。また、賃料の保証があったとしても、保証契約上の義務不履行にすぎず、不法行為上の問題にはならない。
(三) 「キャピタルゲインを取得できる欺罔」の主張について
原告らは、ライベックス販売員が各物件を転売するときは購入価格よりも高額で販売することが可能であり、キャピタルゲインを得られると宣伝して販売した、と主張する。
しかし、右のような説明があったとしても、このような宣伝文言を使うことは通常の販売上のセールストークとして許されるものであるし、原告らにおいても、物件価値が上昇するか下落するかのリスクは原告らに帰属するとの考えで、売買契約上、これらの点については、ライベックスとの間で何らの約定もなされていない。
なお、原告らは、共有持分についての取引市場がないと主張するが、ライベックスは一般的な取引市場があると説明したものではないし、かえってライベックスを介して転売可能であるとの説明をしたものである。
2 被告の共同不法行為責任について
(一) 被告は、ビー・アンド・ビー新宿の開発、建設、販売活動に関与したことはなく、購入者に対する販売勧誘、物件説明、売買立会い等は一切行っていない。
(二) ライベックスと原告ら購入者間の売買契約成立日は昭和六〇年七月ころから昭和六一年二月ころで、遅い者でも同年六月ころである。一方、ライベックスローンに関する申入れを初めて受けたのは昭和六一年三月で、右両者間には時差がある。次の(1)ないし(4)の各事実は右時差に関係なく明らかな事実であるが、右時差の存在によってより明確となるものである。
(1) 被告は、ライベックスのホテルオーナーズシステムの開発、ビー・アンド・ビー新宿の企画、建築、販売活動、販売内容等に一切関与していない。
(2) 原告ら購入者は、被告の貸付けと関係なく、各自の判断でビー・アンド・ビー新宿の区分所有権や共有持分を購入した。
(3) 売買契約と被告の貸付契約は同時に成立したものではなく、貸付けは売買契約の内容とはなり得ない。
(4) ライベックスの配当保証、配当予想、元本保証、キャピタルゲインの保証等の宣伝があった場合であっても、原告らは、それに被告が関与していないことを承知してライベックスとの売買契約を締結した。
(三) ライベックスの倒産の予測可能性について
ライベックスは、昭和五八、九年ころから平成三年前半ころまで、国内の不動産業界におけるワンルームマンションの販売会社として有力な地位にあった。昭和六一年ころ、不動産価額の上昇期にのり、また、国内の経済上昇傾向の中において、ライベックスは成長しつつある会社であると見られていた。
被告は、本件協定の成立経過における接渉内容に加えて、あさひ銀クレジットから右経過において受け取ったライベックス作成の第四期(昭和五九年一月期)、第五期(昭和六〇年一月期)、第六期(昭和六一年一月期)の各決算報告書の写し等からして、ライベックスが右のとおりの有力な地位にあって成長しつつある会社であり、本件協定を締結してもよいと判断したのである。
また、被告においては、従前から、提携ローンを行う場合に販売会社の決算報告書に関する監査法人の監査報告書まで見ることはなかった。
被告には、ライベックスの事業、経理の監査に立ち入って調査ないし監査すべきことを求められている立場でもないし、義務もない。
ライベックスが倒産したのは、平成二年の金融引締めのための不動産業者への融資規制、その後のバブル経済の崩壊、投資用のための損益計算禁止の税制改正等によるものであって、これらの原因は、その規制、崩壊、禁止等が行われ、あるいは現れるまで、事前に予測できないものである。
被告は、ライベックスには経済的信用があるものと考え、ライベックスの倒産理由についても予測できないし、予測しなかったことについても過失はない。
(四) ローン契約がずさんであったとの主張について
被告は、あさひ銀クレジットが連帯保証責任を負うことの前提で、消費貸借契約につき十分との判断で貸付を行ったものである。
3 被告の債務不履行責任について
被告は、原告らの主張するような、信義則上の保護義務ないし安全配慮義務が強く働くべき特別な社会的接触の関係に入ったとはいえない。
原告らは、金融機関に関係なく共有持分等の購入を決めているのであり、契約上の権利者は自らの責任で、利益を得ることだけではなく義務不履行のある場合をも考えておくべきであった。
被告は、ライベックスの倒産、倒産の原因について、本件貸付当時知らなかったし、予測しなかったものである。
また、原告らは、貸金業法違反を主張するようだが、被告は貸金業法上の貸金業者ではない。
4 ビー・アンド・ビー新宿以外の物件に関する主張事実について
ビー・アンド・ビー新宿以外の物件に関する主張については、被告は、ビー・アンド・ビー新宿と共通である範囲でビー・アンド・ビー新宿と同趣旨の主張をするものであり、仮にライベックスや他の金融機関に共同不法行為責任や契約上の責任があったとしても、被告は右責任を生じた行為や事実について無関係であるから、いかなる責任をも負担する理由がない。
三 本件の主な争点
1 ライベックスが行った各ホテル等の「ホテルコンドミニアム・オーナーズシステム」による販売は、原告らに対する不法行為に当たるか。
2 ライベックスによる「ホテルコンドミニアム・オーナーズシステム」の販売が原告らに対する不法行為に当たるとして、被告が右販売につき共同不法行為責任を負うか。
3 被告は、原告らに対して行った融資につき、担保適正評価義務違反により、又は貸手責任として債務不履行責任を負うか。
第三当裁判所の判断
一 争点1(ライベックスの不法行為)について
1 証拠によれば、次の各事実が認められる。
(認定に供した主な証拠を略記して摘示する。以下本判決において同様。)
(一) オーナーズシステム
城山産業株式会社は、昭和五五年三月に設立され、代表取締役に千葉が就任した。城山産業株式会社は、昭和五八年一一月に商号を変更し、ライベックスとなった(以下商号変更の前後を問わず「ライベックス」という。)。
ライベックスは、オーナーズシステムを基盤としたオーナーズマンション事業を同年九月に開始し、オーナーズシステムを基盤としたホテルコンドミニアム事業を昭和五七年一〇月に開始した。
オーナーズシステムとは、賃貸を目的としたホテル又はマンションの一室を所有し、その管理、運営の一切を第三者に委託し、毎月一定額の収入を受け取るシステムで、マンションを目的とするものはリース・マンション・オーナーズ・システム又はオーナーズマンションシステム、ホテルを目的とするものはホテルコンドミニアム・システムあるいはホテルコンドミニアム・オーナーズシステムなどと呼ばれた。
ライベックスは、昭和五八年一〇月にビー・アンド・ビー八王子を、昭和六〇年四月にはビー・アンド・ビー渋谷を、昭和六二年二月にはビー・アンド・ビー新宿を、それぞれオープンさせた。
ビー・アンド・ビー新宿の販売は、右オープンに先立つ昭和六〇年ころ行われ、その一部については一室ごとの区分所有権で販売され、一部については、一室を一口四〇〇万円ないし一三〇〇万円程度の共有持分に分割した単位での販売が行われた。
昭和六二年三月にオープンしたビー・アンド・ビー木場は、総戸数三〇三戸のうち二九七戸が一口四〇〇万円で販売された。
昭和六一年一二月にオープンしたホテル三條苑は、総戸数二〇五戸のうち二〇〇戸、一八三二口が販売され、販売価格は、一戸四五五〇万円ないし三億一二〇〇万円又は一口六五〇万円とされた。
昭和六三年四月にオープンしたカレッジタウン八王子は、ホテル部分を一四三四口に分割して一口五五〇万円、マンション部分を九六五口に分割して一口四五〇万円で、それぞれ販売された。
昭和六三年八月にオープンしたホテルアーサー札幌は、平成元年ないし平成二年ころ、一戸五二〇〇万円ないし二億円程度で販売された。
プレジデントヒルズ上祖師谷は、一口五一〇万円又は五一〇〇万円で販売された。
(二) オーナーズシステムによる物件の販売
オーナーズシステムによる物件の販売は、投資家がライベックスとの間で、ホテルやマンション等の区分所有権又はその共有持分を対象とする売買契約を締結するとともに、売買契約の対象である不動産につき、ビー・アンド・ビーとの間で賃貸運営代理契約を締結し(ビー・アンド・ビー渋谷及びビー・アンド・ビー新宿)、あるいはライベックスとの間で賃貸借契約を締結する(ビー・アンド・ビー木場、カレッジタウン八王子、ホテル三條苑、ホテルアーサー札幌、プレジデントヒルズ上祖師谷及びビー・アンド・ビー八王子)方法によって行われた。
(三) 本件各物件の販売に際して締結された賃貸借契約又は賃貸運営代理契約においては、賃借人であるライベックス又はビー・アンド・ビーは、物件購入者に対して、物件ごとに定められた年間配当率にしたがって計算された賃料を毎月支払うこととされた。
そして、右各契約においては、各物件とも、賃貸期間は一〇年とされ、物件の基本利用料金が改訂されたとき、あるいは一定期間(物件により三年のもの、五年のもの、一〇年のものがある。)が経過した時点で、ホテル等の基本室料が変更されていたときは、その変更率に連動して賃料額も変更されるものとされた。
(四) ライベックスは、第五期(昭和五九年二月一日ないし昭和六〇年一月三一日)までは、会計監査人による監査を受けていなかったが、第六期(昭和六〇年二月一日ないし昭和六一年一月三一日)に初めて会計監査人による監査を受けた。
ライベックスは、第六期の決算報告書において二億円近くの利益を計上していたが、第六期にライベックスの監査を行った監査法人朝日新和会計社(以下「朝日新和会計社」という。)は、その監査報告書において、ライベックスの貸借対照表等につき、①販売用未成不動産のうち三五億三二〇〇万円は資産性がなく費用処理されるべきものである、②売上高のうち一七億五〇〇〇万円及び売上原価のうち一六億四八〇〇万円は当期に帰属する収益及び費用とは認められない、などの理由で公正な会計慣行に照らし会社の財産及び損益の状況を正しく示していないとの意見を付し、利益処分案についても、法令及び定款に適合していないなどの意見を付した。
また、朝日新和会計社は、第六期についての「監査結果報告」と題する書面において、ライベックスの経理部の中心メンバーが資金関係業務に忙殺され記帳関係業務が等閑になっているとの指摘を行った。
朝日新和会計社は、ライベックスの会計上の問題点があまりにも多すぎたため、次期以降の監査は行わない旨ライベックスに通告した。
ライベックスは、第七期(昭和六一年二月一日ないし昭和六二年一月三一日)の決算においては、三億四五〇〇万円余りの損失を計上し、ライベックス決算史上唯一の赤字決算となった。
第八期(昭和六二年二月一日ないし昭和六三年一月三一日)及び第九期(昭和六三年二月一日ないし平成元年一月三一日)は、アスカ監査法人の監査を受け、いずれの期も監査結果としては、不適法との指摘は受けなかったが、第九期についての「監査結果報告書」と題する書面においては、月次決算ができる体制にはなっていないとか、実績値の把握が十分にできない原因は、経理部のメンバーが資金調達のための資料作りに忙殺され、通常の経理業務に専念できない体制になっていることにある、などの指摘を受けた。
また、第一〇期(平成元年二月一日ないし平成二年一月三一日)においても、ライベックスは、アスカ監査法人の監査を受け、同監査法人は、その監査結果において、①分譲未収入金一四九億九〇〇〇万円が過大計上されている、②販売用不動産のうち五億七六〇〇万円は支払利息であって営業外費用に計上されるべきものである、などの指摘を行い、貸借対照表及び損益計算書のうちその部分は会社の財産及び損益の状況を正しく示しておらず、利益処分案は法令及び定款に適合していない、との監査結果を付した。
アスカ監査法人は、第一〇期について作成した「監査覚書」と題する書面において、第九期と同様、経理部の主要メンバーが資金調達のための資料作りに忙殺され、通常の経理業務に専念できない体制になっている旨の指摘を行い、改善案として月次決算制度の確立を求めた。
2 そこで、ライベックスの原告らに対する不法行為の成否について検討する。
(一) 本件各物件は、ホテル等の区分所有権ないしは区分所有権をさらに細分化して共有持分化したものであるから、ライベックスないしビー・アンド・ビーから支払われる賃料は本件各物件の購入者にとって物件からの唯一の収益となる。また、本件各物件の販売においては、「永続的な安定収入の得られる」、「毎月確実な収入があります」、「毎月の安定収入」などと、賃料保証が最大のメリットの一つとして掲げられていた。
そして、前記のように、本件のいずれの物件についても、賃貸借契約ないし賃貸運営代理契約の締結によって、ライベックスないしビー・アンド・ビー(《証拠省略》からライベックスの子会社と認められる)は賃料の支払義務を一〇年間負うことになっており、右賃料は、室料の変動による変更が予定されていたものの、ホテル等の稼働率や収益状況による影響を受けるものとはされていなかったから、仮に経済情勢の変動等の事情によってホテル等の稼働率や収益状況が悪化しても、ライベックスないしビー・アンド・ビーは賃料の支払義務を免れることができない仕組みとなっていた。
(二) このように、ライベックスないしビー・アンド・ビーは、原告らにとって本件各物件からの唯一の収益となるべき賃料として、ホテル等の稼働率や収益状況にかかわらず長期にわたって一定額の賃料を支払うことを約したのであるから、ライベックスないしビー・アンド・ビーは、経済情勢の変動等があっても、右一〇年間の保証賃料の支払に耐えうるだけの財政的基盤を整備しておくべきであった。
しかしながら、前記1(四)認定の事実に加え、《証拠省略》によれば、昭和六〇年以降のライベックスは、慢性的な資金不足状態から脱することができず、資金調達に忙殺されたままで財政状況の改善に取り組むこともできずに赤字体質のまま事業を急速に拡大していったために、右時期以降ライベックスはいわば自転車操業の状況に陥っていたものと認めることができ、したがって、原告らに対する本件各物件販売当時、ライベックスは以後一〇年間にわたって右賃料保証をなしうるような財政的状況にはなかったものというべきである(現に、ライベックス及びビー・アンド・ビーは、平成三年一〇月ころ、賃料の支払を停止するに至っている)。
それにもかかわらず、右のように、賃料の支払があたかも確実であるかのように装い、これを最大のメリットの一つとして勧誘して行われたライベックスによる本件各物件の販売行為は、詐欺に当たるか、少なくとも詐欺的であったといわなければならない。
なお、《証拠省略》によれば、ライベックスが原告らに対する賃料の支払を停止するに至ったのは、直接的には同社の経営破綻によるものであり、その破綻はいわゆるバブル経済の崩壊という経済情勢の激変が大きな要因となっていると認められるが、この点を考慮に入れても、ライベックスの本件各物件の販売当時の状況に基づきその販売が詐欺的であったとする右判断に影響を及ぼすものではない。
3 そうすると、ライベックスは、詐欺あるいは詐欺的な方法をもって本件各物件の販売を行ったものということができ、原告らに対して本件各物件の販売につき不法行為責任を負うものというべきである。
二 争点2(被告の共同不法行為責任)について
1 ライベックスとの提携
(一) 《証拠省略》によれば、次の各事実が認められる。
(1) 被告は、昭和六一年三月ころ、あさひ銀クレジットから、ライベックスの販売物件の購入者に対する貸付けをあさひ銀クレジットの連帯保証つきで行う取引を紹介された。
被告は、ライベックス及びあさひ銀クレジットとの間で協定を締結するに際し、①ライベックスの会社概要に関する情報、ビー・アンド・ビー新宿の物件概要に関する情報、ビー・アンド・ビー八王子及びビー・アンド・ビー渋谷を販売したとの情報並びにビー・アンド・ビー新宿の土地及び建物の評価に関する情報を得るとともに、②決算報告書、ホテルコンドミニアムオーナーズシステムのパンフレット及び「価格表B&B新宿」の各資料を入手した。
被告は、右各資料等を検討したところ、ライベックスは不動産等の固定資産は少ないものの、不動産販売についての実績があり、成長しつつある会社であること、被告の貸付けについては、割賦返済額、賃料収入、年収等総合的に見て、借主に返済能力があると見込まれること、あさひ銀クレジットが連帯保証責任を負担すること等により、本件協定を締結することになり、個別貸付けについては、審査の上、貸付けを実行することになった。
(2) 被告は、ライベックス及びあさひ銀クレジットとの間で、昭和六一年八月五日、本件協定を締結した。
本件協定は、①ライベックスは、ライベックスが建築・販売するマンション、ホテルを購入する者のうち融資を受ける希望者を被告に紹介すること、②貸付対象者は、貸付け時の年齢が二〇歳以上であり、税込年収が三〇〇万円以上あって貸付後も継続して収入が見込める者であること、③あさひ銀クレジットは、借入希望者のうち承認できる者について保証委託契約を結び、次の④の債務について連帯保証人となり、購入物件について根抵当権の設定を受けること、④被告はあさひ銀クレジットが連帯保証責任を負担する借入申込者に対し、承認できる者に融資を行う、⑤貸付金額は四〇〇〇万円以内とすること、を定めていた。
(二) 本件全証拠を見ても、被告が他に原告ら主張のような合意をライベックスとの間で行った事実は認められない。
2 ライベックスとの共同性について
(一) システム商品の共同開発の主張について
原告らは、「ホテルコンドミニアム・オーナーズシステム」に提携ローンが組み込まれていることを前提として、本件各物件は提携ローンの存在によって初めて商品価値を取得したとし、被告がライベックスと提携したことがオーナーズシステムを共同して開発したことに当たると主張する。
(1) ライベックスの本件各物件販売に際しての「ホテルコンドミニアム・オーナーズシステム」の勧誘においては、「ホテルコンドミニアム・システムとは、わずかな自己資金と長期返済の借入金を利用して、ホテルの一室を所有、ホテル運営に関する一切の業務をホテル運営会社に委託することによって、発生する収益を定められた一定の割合で毎月確実な収入として受け取るシステムです。」、あるいは、「オーナーズシステムとは、わずかな頭金(自己資金一〇%)と長期ローンを活用して、ホテルのオーナーとなり、(以下省略)」などと説明される他、多様な文言をもって、ホテルコンドミニアム・オーナーズシステムにおける購入が長期返済の借入れを前提としているように説明されていた。また、長期返済の借入れをすることによって節税効果が得られることも、本件各物件の勧誘に当たり、購入による最大のメリットの一つとして指摘されていた。
しかし、ライベックスが販売する物件の購入に関しては、借入れによって代金を支払うよう推奨されていたものの、必ずしも提携ローン会社からの借入れをしなければライベックスの販売物件の購入ができなかったわけではなく、現に自己資金で購入した者もいれば、他の金融機関からの借入れによって購入した者も存在したのであるから、提携ローンが「ホテルコンドミニアム・オーナーズシステム」による各物件の販売に不可欠の要件として組み込まれていたとは認められない。
(2) また、本件において被告がライベックスとの間で締結した本件協定は、融資条件として、融資時の年齢が二〇歳以上であること、前年度の税込年収が三〇〇万円以上あり、融資後も継続して収入が見込めること、融資金額は四〇〇〇万円までとすること、などを定め、融資手続として、ライベックスが借入れ希望者から保証委託書、借入申込書、所得証明関係書類などを徴求し、融資条件を点検の上あさひ銀クレジットに送付すること、その後あさひ銀クレジット及び被告がそれぞれ審査した上で被告が融資を実行すること、などを定めたものである。
このように、被告がライベックスとの間でなした本件協定は、ライベックスの行う物件販売への協力を内容とするものではなく、被告はライベックスの行うビー・アンド・ビー新宿その他の販売物件の建築、ホテルコンドミニアムの仕組みの企画はもちろん、その販売活動に関与したことは一切ないのであるから、被告がライベックスとともにシステム商品を開発したとの主張は理由がない。
原告らが、本件協定の存在から、被告がライベックスの「ホテルコンドミニアム・オーナーズシステム」による本件商品の販売に協力している、あるいは被告が本件商品の開発ないし販売をライベックスと共同で行ったものと考えたとしても、それは本件協定に対する原告らの過大な評価に基づく誤解というほかはなく、右判断に影響を与えるものではない。
(二) 被告のローン審査を問題とする主張について
《証拠省略》によれば、被告は、借入申込者から「ライベックスローン・太陽生命住宅ローン借入申込書(新宿口)」の提出を受け、あさひ銀クレジットが連帯保証することを確認した上で貸付の決定をしていたものであり、右借入申込書には、借入申込者の勤務先や年収が記載されていることが認められるから、被告は、あさひ銀クレジットの保証を前提として、借入申込書記載の事情をもとにローン審査をしていたものと認めることができ、右ローン審査がずさんであったとは認められない。
(三) 「融資制度による信用の付与」の主張について
原告らは、被告が「わずかな年収があればホテルの部屋の小口共有持分を唯一の担保としてその購入資金の約九〇パーセント以上の融資を長期の元利均等返済方式で貸し付ける仕組みを作った」と主張し、これにより本件各物件の交換価値と収益性について信用性が付与されたと主張しているが、前記認定のとおり、ライベックスが販売する物件について被告が右のような仕組みを作ったとは認められないから、右主張は理由がない。
(四) ライベックスとの手続上の一体性の主張について
原告らが、被告とライベックスとの手続上の一体性の根拠として挙げる事実のうち、被告がライベックスに対してローン金額の決定権限を委ねていたこと、被告が各ローン借主との間で、被告が融資するローンの貸付金についてローンの各借主がライベックスから受領する賃料を代理受領することができる旨の契約を締結していたこと、あるいは、被告がライベックスに対し、提携関係があることや、これにより物件価格が信用できることを宣伝することを許したことの各事実については、本件全証拠によっても認めることができない。
その他の事実については、ライベックスとの一体性を基礎づける事実とは考えられない。
(五) 「利益共同体」の主張について
原告らは、ライベックスの物件販売により被告も融資実績を伸ばすことができたとして、被告とライベックスとは利益共同体を形成していたと主張する。
しかし、ライベックスによる物件販売を被告が共同したとはいえない以上、ライベックスによる物件販売の間接的効果として被告に対する融資の申込みが増加することとなっても、その一事のみをもって被告とライベックスとが「利益共同体」を構成していたとはいえないし、不法行為責任の根拠ともなり得ない。
3 被告の認識について
原告らは、被告がライベックスと提携関係に入る際において、原告らの本件商品の購入動機(確定配当の保証や節税効果等)やローンの返済原資(ライベックスからの賃料配当)について認識する一方、ライベックスの財務状況やホテルの営業収支を入手資料から十分認識し、ライベックスが原告らに確定配当を保証することは不可能であってライベックスは早晩事業を継続できなくなること、したがって、ライベックスの本件物件販売は詐欺行為であり、ライベックス商法は構造的詐欺商法であることを認識し、あるいは認識し得たと主張する。
しかしながら、右2認定のとおり、被告の行為がいかなる観点からみても、ライベックスの本件物件販売との共同性を有していたと認めることができないことからすれば、被告がライベックスとの間で提携契約を締結する際に、提携先であるライベックスの本件物件販売が原告ら主張のような詐欺行為であることを認識していた場合は格別、そうでない場合には、被告には、ライベックスの販売物件の問題点やライベックスの財務状況、営業実績及び事業継続の見直し、あるいはライベックスの顧客の本件物件の購入動機やローンの返済原資の内容等について積極的に調査すべき義務はないものというべきである。
そして、本件全証拠をもってしても、被告がライベックスとの本件協定を締結した昭和六一年八月の時点において、ライベックスの本件物件販売が原告ら主張のような詐欺行為に当たることを認識していたと認めることはできない。
したがって、ライベックスの本件詐欺行為に対する被告の認識あるいは認識可能性をもって、被告の不法行為責任の根拠とする原告らの主張は失当というべきである。
4 「不動産特定共同事業法の制定」の主張について
原告らは、不動産特定共同事業法が制定されたことをもって被告の行為の違法性の根拠とするようであるが、元来適法になされた行為が事後の立法によって違法性を基礎付けられないのは当然のことであるところ、既に認定したとおり、被告がライベックスと共同して不法行為を行ったとは認められない以上、被告の行為は適法であったというべきであって、その後に同法が制定されたことによって、被告の行為が違法となるものではない(仮に、本件と同様の行為が同法の施行後に行われたならば、その行為が同法の規制の対象とされる余地は否定できないが、それは、同法によって、従前規制の対象とされなかった行為が投資家保護の趣旨から新たに規制されるに至ったことによるのであって、これをもって本件行為が元来違法であったことの根拠とすることはできない。)。
5 担保適正評価義務違反の主張について
原告らは、被告が、本件各物件が物件の売却価格にふさわしい担保価値を有する物件であるかどうかを適正に評価する義務すなわち担保適正評価義務を原告らに対して負っていたと主張する。
しかし、担保は、専ら債権者が自らの利益を確保するために取得するものであって、債務者の利益を図るものではないから、担保価値の評価は、債権者が専ら自らの利益のために行うものであって、債権者が担保価値を過大に評価した場合には、債権者自身が貸倒れのリスクを負うにすぎず、債務者が不利益を受けるものではない。
したがって、債権者は、債務者に対して担保価値の評価について何らかの義務を負うものではなく、担保適正評価義務違反をいう原告らの主張は失当である。
6 「被害者救済の必要性」の主張について
原告らは、本件詐欺商法によって提携金融機関は貸倒れになる部分を除けば十二分に利益を上げられる仕組みになっていたのに対して原告らは巨額の債務を負担することになってしまったことを取り上げて不法行為法によって救済されるべきであると主張するが、そもそも被告に不法行為に該当する事実がない以上、投資の損失を被告に転嫁するのは筋違いであり、右主張は失当である。
7 以上のとおり、被告がライベックスと共同して不法行為を行ったとは認められないから、被告が共同不法行為責任を負う旨の原告らの主張は理由がない。
三 争点3(被告の債務不履行責任)について
1 原告らの主張するような担保適正評価義務なる義務を被告が負わないことは前記二5のとおりであり、右義務違反をいう原告らの主張は失当である。
2 貸手責任の主張について
原告らは、被告が負うべき注意義務の内容として、「販売会社の経営内容、健全性を調査すべき義務」、「販売物件及び販売会社の収益力についての調査義務」及び「物件の処分性及び交換価値を調査すべき義務」を主張するが、貸主が貸付金の使途について調査すべき義務を負わないことは前述のとおりであるから、右主張は失当である。
また、原告らは、被告が債務者に対して過剰貸付けをしてはならない義務を負うと主張するが、借入額が過剰かどうか、あるいは、返済が可能かどうかは専ら債務者において判断すべき事項であり、貸付けをした債権者において調査しなければならない事項ではない。
債権者のなした貸付けが仮に過剰であり、債務者の返済能力を著しく上回った場合には、債権者が貸倒れのリスクを負うにすぎず、その場合に融資を決定した担当者が債権者である会社に対する内部的責任を負う場合があることはともかく、債権者が債務者から責任を問われるいわれはない。債務者は融資利益を得ている以上、その返済が困難あるいは不可能になったことについて債権者にその責任を転嫁すべきではない。
したがって、過剰融資をいう原告らの主張も理由がない。
四 以上のとおり、被告には共同不法行為責任も債務不履行責任も認められない。原告らが最終の段階で提出した準備書面においては、損害賠償請求権のほか、詐欺取消し又は錯誤無効を理由として原告らが被告に対して不当利得返還請求権を有する旨の記載がある(請求の追加的変更により不当利得の返還をも求める趣旨とまでは解釈できない)が、本件において消費貸借契約について詐欺あるいは錯誤の事情は認められないから、原告らが被告に対して不当利得返還請求権を有するとも考えられない。
第四結論
以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判官 菊池則明 裁判長裁判官荒井勉及び裁判官東崎賢治は、転任のため、署名押印することができない。裁判官 菊池則明)
<以下省略>